暗転(あんてん)
2011.08.04 OA
舞台上の装置や俳優を移動させて違う場面へ移ることを「場面転換」と言い、その転換の様子をお客様に見えないように暗い中で行うことを「暗転」と言います。
大がかりな転換の場合は「暗転幕」と呼ばれる黒い幕を使うケースもありますが、簡単な転換や小劇場など暗転幕のない劇場では単に照明を落としただけの状態で行います。
裏方さんや俳優さんといえど、本当に真っ暗では何も見えませんので、一般には「畜光テープ」という暗闇で光るテープを客席からは見えない位置に目印として貼り、それを頼りに転換・移動を行います。
また、照明が点いた明るい状態から急に真っ暗になると舞台上にいた俳優は目つぶしにあったように視覚を失ってしまいます。夜目の利く俳優さんは自力で袖にたどりつく事も出来ますが、見えなくなってしまう俳優さんの場合は黒い服を着た裏方さんが迎えに来てくれたり、暗くても見える共演者が手を引いてくれたりして移動する事もあります。
袖の中など、お客さんから見えない位置に待機している役者・スタッフは、暗転の前にしばらく片目を塞ぎ、暗い状態に目を慣れさせておく事で暗くなった瞬間から動けるように準備をします。理科の時間に習う暗順応というヤツですね。
暗転中の移動は(多少の個人差はあっても)危険であり、舞台装置や共演者にぶつかったり小道具を落としたり、何かしらの事故が起こる場合もよくあります。ある事例では、舞台上から袖に移動するつもりで客席のど真ん中に移動してしまった、というケースもあります。照明がついたらビックリですね。
芝居に支障のない範囲で、明るいシーンのうちに共演者・道具の位置や袖の方向・距離などをそれとなく観察し記憶しておく事で多少は危険を減らせますが、やはり危ないものは危ない。
いかにスムーズに事故なく暗転を進められるか、それぞれの劇団でいろんな工夫が凝らされています。
また、暗転は装置の転換や役者の移動以外にも、「時間の経過」や「場所の変化」など、演出上、前のシーンと次のシーンが違うという事を伝える役割がある場合もあります。
前のシーンから一瞬の暗転を挟んで次のシーンに移ると、そこは数年後、などというケースですね。
舞台では様々な制約から装置の移動・変化が難しい場合も多く、また、物理的には可能であっても演出上それをしたくない(芝居のテンポが落ちる、など)場合もあります。そうした時には暗転を使って「変化したんですよ」という事にして次のシーンに移ります。舞台ではこうしたお客様と製作者の間にある約束事によって、停滞せずスムーズに見せていく事がよくありますね。
暗転は演出上重要な役割を担うだけに、多用は禁物。いかに暗転をうまく使うか(あるいは使わないか)が演出の腕の見せ所の一つかもしれません。