飼い殺し(かいごろし)
2012.03.01 OA
物騒系舞台用語シリーズ第四弾は、「飼い殺し」。
本来は『役に立たなくなった家畜を死ぬまで飼い続けておくこと』。そこから転じて、人間に使う場合は『本人の能力を十分に生かせないような地位や職場に置いたまま雇っておくこと』。いずれにせよあまりよくない意味で使われますね。
舞台用語としての「飼い殺し」はといえば、もちろん『役に立たない役者を死ぬまで劇団に所属させておくこと』ではありません。
舞台の袖、セットの裏などには、転換や衣装替えのためにスタッフが隠れていたり、出番待ちの役者が待機していたりします。通常、出番が終われば役者は楽屋に戻って休みますし、スタッフも仕事がないのにいつまでもそこに残ることはありません。
しかし舞台の構造上、自由に行き来することが出来ない場所にいなければならない人も出てきます。
舞台装置の構造上、芝居が始まってからそこに移動することは出来ないのに、転換時に壁を移動するために壁の裏にいなければならないスタッフさん。
舞台上にあるドアから入ってこなければならないのに、芝居が始まってからではそこに移動する姿がお客さんから見えてしまう役者さん。
そうした人たちは、開演前から(場合によっては開場前から)ずっと出番までその場所で待機していなければなりません。
こうした「動きたくても動けない、静かにじっとしていなければならない様子」を「飼い殺し」と言います。
隠れているスタッフ、役者はお客さんには見えませんが、舞台上にいます。そのため咳やくしゃみも我慢し、ただただ静かに物音を立てないように、じっと我慢して待っています。
血が滾の舞台でも飼い殺しで開場から終演まで、最後のお客さんが劇場を出て行くまでずっと動けないスタッフがいたこともあります。その間、三時間。本当にお疲れ様でした。