[ 2013.07.18 OA ]
「へぇ、美杏ちゃんっていうのかぁ、カワイイ名前だねぇ♪」
老師の行方を追う一門の前に、突如現れた謎の美女・美杏。
四人は、師の居場所を知っていると言う彼女に先導され、人気のない道を進んでいた。
「・・・どう思います? 龍さん」
既に美杏に対する警戒を解いた様子の蓮や鈴の姿を後ろから眺めつつ、蘭は隣を歩く龍にそっと話しかける。
蘭は、鈴たちが連れ去られる現場に居合わせたことといい、老師の居場所を知っていたことといい、あまりに都合よく美杏が今回の事件に絡んでいることに疑念を抱いていた。
「確かにね。彼女には俺たちに黙ってることがありそうだ。でも・・・」
「でも?」
「問題は、おそらくそこじゃないんだろうな・・・」
意味深長な龍の言葉の真意を問う前に、二人の会話は蓮と鈴の湿りを帯びた声に遮られた。
そちらに耳を傾けてみれば、知らぬ間に話題は美杏の身の上話へと移っていたらしい。
「そっかぁ、ご両親があいつらの手に掛かって・・・大変だったんだねぇ」
「・・・我が家に代々伝わる早口の秘薬が狙われたんです。何とか逃げ出した私も、追いつめられて・・・でも老師が、身をていして助けてくださったんです」
「へぇ〜老師が! やる時はやるじゃない!」
ここに来て老師の評価がうなぎ登りである。
何はともあれ、ここ最近の老師の動向に得心がいき、そして不遇な美杏の身上にすっかり同情心を誘われた蓮と鈴は、迷わず協力と護衛を申し出た。
・・・と、じっと黙って話を聞いていた龍がおもむろに口を開く。
「ひとつ聞いていいかな。何故、老師はあんたに協力しているんだ?」
「それは・・・人助けのつもりでは?」
「人助けというなら何故俺たちに隠すんだ?そもそも、やつらは老師ばかり探していて、肝心のあんたのことは一度も話に出なかった。あんた自身も、目的のためなら人殺しさえいとわない輩に狙われながら、一人で歩き回るのは・・・どういう事だろうな」
龍の矢つぎ早の質問に、しどろもどろになっていく美杏。
その表情が色を失っていく。
「まさかこんなに疑われるなんて・・・」
「あ、あのね、龍も別に疑ってるとかじゃなくてね」
「そうっすよ!龍さん、ほら謝って!」
動揺する蓮たちには目もくれず、龍を見つめる美杏。
ややあって突然、にっこりと微笑んだ。
「・・・あ〜ぁ。失敗しちゃった。でもまぁ、いっか。時間ぴったり」
「・・・へ?」
その美杏の言葉と同時に、覆面の男たちが周囲を取り囲んだ。
敵の首領と美杏の会話から、そこに契約が結ばれていたことを知り、唖然とする一同。
涙を誘う過去話も全て嘘、四人を助けたのもこうして情報を売るためだったんだろうと、蘭は腹立たしげだ。
「もう戦うしかないよね。勝てるかなぁ?」
「・・・美杏。こいつら、全員倒してしまっていいんだな?」
「もちろん! 見せてよ、君たちの力♪」
「調子に乗るなよ、女ぁ!」
「女だからって甘く見ないでよね!」
今回の早口言葉
「赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ」
先陣をきって飛び出したのは、鈴。
「その技ならもう見切ったって・・・ほら、ここ!」
襲い来る覆面の攻撃を最低限の動作で避け、がらあきになった腹部に拳を打ち込む。
更に追撃、追撃、追撃。フラフラになった覆面にとどめとばかりに旋風脚を叩きこんだ。
・・・ 経験値 〔鈴 3ポイント〕 獲得! ・・・
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「小童どもが、こざかしい!」
「俺の出番だ!豪快に行くぜ!」
今回の早口言葉
「バナナの謎はまだ謎なのだぞ」
鈴の横をすりぬけ、前に出たのは蓮だ。
鈴に斬りかかろうとしていた男に相対する。
「止められるもんなら、止めてみやがれ!」
大勢を低くして相手の懐に潜り込み、垂直に突き上げるようにしてその顎に掌底を叩き込む。
脳を揺らされてたたらを踏んだところに足払いをかけ、倒れこむ横っ面に踵を打ち込んで、蓮は相手を退けた。
・・・ 経験値 〔蓮 3ポイント〕 獲得! ・・・
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「相手にとって不足なし・・・!」
「手加減なんて器用な真似、私、出来ませんから」
今回の早口言葉
「魔術師魔術修行中」
先の二人に背を向けるように立ち、蘭も刺客を迎え撃つ。
「怒ってるんです、私・・・消えてください!」
剣を握る手を手刀で打ち、獲物を取り落したところに回し蹴りを放つ。
詰まった呼気を掃き出し、前かがみになる背に組んだ手を振り下ろせば、男は地に伏せ気を失った。
・・・ 経験値 〔蘭 3ポイント〕 獲得! ・・・
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「ぐっ、青二才どもが・・・後悔しても遅いぞ!」
「いいから来いよ・・・ねじ伏せてやる!」
今回の早口言葉
「ブラジル人のミラクルビラ配り」
蘭の攻撃の隙を突こうとした敵の前に、立ちはだかる龍。
「疾風迅雷・・・一瞬だ」
言うや否や深く踏み込み、拳を乱れ撃つ。
雨のように降り注ぐ攻撃に、反撃の機会を失った男の隙を龍は見逃さない。
顔面に強烈な一撃を見舞えば、男は白目をむいて地に沈んだ。
・・・ 経験値 〔龍 3ポイント〕 獲得! ・・・
「いきがるだけのことはある! だが、まだだ!」
往生際悪く、数を頼りに攻めてこようとする覆面の男たちを前にして、龍は美杏の名前を呼んだ。
「美杏っ!もう十分だろ?」
「はいはい、潮時だね」
「何を言っている・・・? えぇい、かかれ!」
首領の号令で、男たちが一門目掛けて襲い掛からんとしたその瞬間。
「生麦生米生卵!」
鋭い早口とともに、巨大な気の塊が覆面たちの後方から放たれた。
男たちはその衝撃に飲まれ、吹き飛ばされていく。
突然のことに一瞬呆気にとられた一門は、しかしそこに泰然とたたずむ姿を認めて、その顔を喜色に輝やかせた。
「老師!」
「うむ、心配をかけたの」
弟子たちの声にうなずいて見せてから、老師は目線を覆面の男たちに移す。
老師の登場に、覆面の男たちは一時抗おうとしたものの、最終的には力の差に大人しく立ち去っていった。
場に残されるのは、早口道場の一門と・・・美杏だ。
「あんた、よくも!」
「待て、鈴。彼女は敵じゃない、味方だ」
「え!? あいつらと手を組んでたのに!?」
「あれは俺たちの力を試したかったからだろ。ヤツラが美杏を探していなかったのは、老師が前面に出て彼女の存在を隠していたから。一人で行動できたのは、老師が護衛していたから。・・・違うか?」
「・・・その通りだよ。老師には、早口の秘薬を奪われないよう手を貸してもらってたの」
龍の推測を全て肯定した美杏は、最後に袂から小さな瓶を取り出し、龍に差し出した。
それは、本物の早口の秘薬。
龍のことを気に入ったから、好きに使ってほしいという美杏に、龍は穏やかに笑んで首を振った。
「必要ないよ。そんなものがなくても・・・修行あるのみ、さ」
*****
「どうじゃった、うちの愛弟子は」
先に道場へと帰る四人の背を見送りながら、老師が美杏に問い掛けた。
いいね、と美杏は返すが、その表情に先刻までずっと浮かべていた明るい笑顔はない。
「いいよ、すごくいい。でも・・・まだあいつには勝てない」
「うむ・・・いずれ、時が来るまでに」
「うん。見込みはある。たとえわずかでも、それを信じようかな。だから・・・」
美杏は手の中にある、秘薬の入った小瓶に視線を落とした。
一度目を閉じてそれを硬く握り締めた後・・・それを地面へと叩きつけた。
砕けた瓶から、秘薬が地面へと流れ出す。
「・・・だからあたしも、こんなものいらない」
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