介錯(かいしゃく)
2012.11.15 OA
「舞台でミスをした、切腹するから首を斬ってくれ」というわけでは、もちろんありません。そんな物騒な。
舞台用語では、手伝いや手助けをする事、世話をする事などを『介錯する』と言います。まぁ一般にも「付き添って世話をすること」という意味で『介錯』という言葉が使われますよね。
たとえば、役者が早着替えをしなければならない時。一人では間に合わないため、数人のスタッフが『介錯』してくれます。小道具の受け渡しが必要なら、それも『介錯』してもらわなければなりませんし、役者が登退場しやすいように、袖の幕を押さえておいてくれるスタッフも『介錯』してくれるスタッフと言われます。
すべて「手伝う」や「補助する」に置き換えてみるとわかりやすいでしょう。
人形浄瑠璃や文楽などでは、小道具の受け渡しをする事を『介錯』と言うだけではなく、その役割を担う人の事も『介錯』と呼びます。照明や音響を担うスタッフを照明さん、音響さんと呼ぶのと同じですね。
また、主に照明などの向きを変えるのに使う長い棒が劇場にはあるのですが、これを『介錯棒』と呼びます。舞台装置などの関係で、照明を吊ってある装置(バトンと言います)が降ろせない場合や、上に上がったままの状態で微調整したい時などにこの『介錯棒』を使って灯体を操作するわけです(日本製の照明灯体のほとんどは、この介錯棒を使う事が前提でひっかかりやすい突起部がついています。外国では棒で操作をしないのでそうした配慮はされていないとか)。照明以外にも、上部の吊り物の向きを変えたり、幕の乱れを直したりと、舞台にはなくてはならない存在でしょう。
長さは2m程度の比較的短いものから、10m程度の長いものまでさまざま。ただの棒のようで、意外と扱いには慣れが必要。大抵は伸縮させる事が出来るのですが、長くなればなるほど、当然操作も難しくなります。自分の身長の何倍もある長い介錯棒を自在に操るスタッフさんはホント、カッコイイです。
舞台は役者以外にもたくさんのスタッフさんたちの『介錯』によって成り立っています。優秀なスタッフさんによる的確な『介錯』は、お客さんには見えないかと思いますが、確実にその芝居の質を高めていると言えるでしょう。